[境界概念]作品について⑥《境界》

この公演のサブタイトルである『境界概念』、ある意味、この曲から始まっているともいえます。

名古屋の現代アンサンブル「音楽クラコ座」の公演のために書かれた曲で、2021年に初演されています。詳しくはその時の記事に書いていますが、中世日本に見られる「境界」という概念に興味を持ち、それを二つの管楽器による四分音衝突になぞらえよう、と考えました。その時の初演映像がこちらです。

とりわけ「中世日本」を強調したいわけではありません。ただ作曲していた当時にたまたま中世人の世界の捉え方の本などを読み、興味を持っていただけにすぎません。しかしこの「境界」と「四分音」が私の中で非常にしっくりとつながり、今回の公演アイデアの源になったような感じです。

二つの楽器は二つの音を同時に交互に演奏するため、いわば「こより」のような関係といえます。しかしこより素材である糸が空間座標上でまったく同じになることはなく(なったら物理的には核爆発を起こします)極度に接近して絡み合い一つの時間を紡ぎ出していきます。この四分音の接近の仕方によって空気の震え方に変化が生じ、それが音楽的時間の形成に繋がります。

具体的な説明を試みましょう。この楽譜は曲の冒頭の部分ですが、わかりやすいように実音記譜にしてト音記号に揃えたものです。いまここに三種類の「核」となる音を色分けしてあります。同じ「核」の音が鳴るときでも四分音でぶつけてありますが、さらに2度違うオレンジと赤のそれぞれの「核」がぶつかるときも四分音まで接近することがあります(水色とオレンジが重なるところは3度の響きになりますが、これは一種の「ぶれ」のようなものです)。「こより」に例えたのはおわかりいただけると思いますが、基本的にこのような書かれ方で音楽が連なっていき、方法論としてはいたってシンプルです。

理屈で説明すればこんな感じになりますが、実際は基本的な書き方だけ決めておき、「こうしたら面白かろう」とか「ああしたらどうなるんだろう」という興味で書いている部分が多いです。この曲特有の特徴があるとすれば、ペンタトニック(五音音階)による音列を使っているという部分で、これは私にしては大変珍しいことなのですが、ではなぜ五音音階を使ったのかというと「中世日本」からの微弱なインスピレーションしかなく、それ以上にたいした理由はありません。安直といえば安直ですが、ここに微分音を交えると、あまりダイレクトにペンタトニック感が感じられないのも自分では面白いと思っています。

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