「CxC作曲家が作曲家を訪ねる旅」告知第2弾
チラシが出回ってしまったものの新作は一音符も書いてなかったがため、恐れ多くて大したことが書けなかった前回の告知。本番までいつのまにか2週間を切りました(下の方に予告動画があります)。
神奈川県民ホールが今年度より新しく始めたシリーズ「CxC-作曲家が作曲家を訪ねる旅-」は、いまを生きる作曲家がアニヴァーサリー・イヤーの物故作曲家を「訪ね」、プログラムを組むというもので、私はその初回の監修を務めさせていただくことになりました。私が訪ねるのは没後25周年の武満徹。若い世代にとってはおそらくレジェンドに位置するこの人は、私の世代以上にとっては「え、亡くなってもう25年経ってるの?」と思うほど、ほぼ「同時代のリアルな」作曲家です。とはいえ、最近あらためて彼の関連書籍を読むと、若い頃は肺を病んでいたとか、現代音楽といえばメシアンとかウェーベルンだったとか、「触れる」文化はさすがに私と食い違います。関係ありませんが、私が生まれた当時ストラヴィンスキーはまだ生きていて、その彼は幼い頃チャイコフスキーを目にしたことがあるそうなので、「過去の作曲家」というのは意外に近いところにいるなあという見方も出来るわけですが。
武満徹については、正直私は「避けてきた」部分があります。私が大学生の頃に彼は格がいくつも違うとても身近には思えない存在であるのと同時に、その頃多く発表されていた新作の多くが、本人が言うところの「調性の海」の、さらに深海部分に沈み込んだというような、もはや這い上がれないであろう世界に行っていたということもあります。それは彼の「武満サウンド」と巷で言われるユニークな音ではあるけど、同時に快楽に身を委ねるようなものであり、あわよくばこれから作曲家として未知の世界に飛び込んでいきたいと(若気の至りで)思う駆け出しにとっては、いまの言葉でいえば「世界線が違う」。将来その音楽が自分と交わることはないだろうと思っていたし、そこまで強い興味も持てませんでした(とはいえ《虹へ向かって!パルマ》などはしばらく愛聴したりしていましたが)。そこから現在までおよそ30年の時が経ちます。
本企画で私が「訪ねる」ことが決まった時は、どうしたものかと戸惑ったのが正直なところです。インド料理店のシェフがイタリア料理店の厨房に立って途方に暮れるしかない。私は新作や旧作を提供するだけでなく、「監修」という名目もあり、独断ではありませんがプログラムも組まなければならない。そうすると単に武満と私の音楽を並べても、味わいの違う料理が脈絡なく並ぶだけのものになってしまう。武満の曲と私の曲を並べて、接点を見つけてプログラムを組む必要があります。個人的には武満がどのように自分の音楽をそのキャリアの中で「固めて」いったのかに専ら興味があったため、初期の曲を中心に探したものの、結構妙な編成が多かったので難航しました(たとえば《ヴァレリア》(1965/69)なんかは当時の電子オルガンが必要で、いやぜひ生で聴いてみたいんだけど相当な調査が必要だな、とか)。ホールの方と協議を重ねながら、結果として以下の曲が並びました。
サクリファイス(1962)
スタンザII(1971)
カトレーンII(1977)
雨の呪文(1982)
対して私の曲は、かなり近作が並びます。
輪郭主義II(2010/18)
輪郭主義IV(2013)
紐育舞曲(2016)
横浜舞曲(2021、神奈川県民ホール委嘱)
(それぞれ作曲年代順。プログラム順ではありません)
世代の違う作曲家二人の、作曲年代がまったくかすらない作品群。おそらくこれがこの企画の特徴でしょう。つまり重ならないものを重ねてしまうとどうなるか、という。しかしこの中で共通項を持つものが二対あります。まずスタンザIIと輪郭主義IIは、ハープとピアノという違いはあれどもどちらもサウンドトラックを伴うソロ作品です。サウンドトラックの生楽器への関わりかたはまったく違いますが、「作曲された当時にどのような電子技術が用いられたのか」という時代の影響も感じながら聴かれるでしょうから、「作曲家を訪ねる」という趣旨の上でも悪くないかと思います。そしてもう一つは雨の呪文と新作の横浜舞曲です。実は私の4曲のうち「輪郭主義」のシリーズは「4分音をぶつける」というコンセプト、「○○舞曲」は作曲プロセスにおいて特殊な楽器配分を行うという方法論を用いたシリーズですが、新作の横浜舞曲ではこの両者の考え方をブレンドしています。雨の呪文ではハープの5つの音に対して4分音のチューニングが指定されていますが、横浜舞曲ではこれを流用しています。4分音に対する武満と私の取り扱い方はもちろん異なるわけですが、4分音のフォーマットをあえて揃えることによってその違いが「見える化」ならぬ「聴ける化」され、対比的に聴くことができるのではないかと考えました。
本当はこれらの曲一つ一つについてもっとコメントしたいところなのですが、8曲分も書くとそれはそれは立派なプログラムノートになってしまうので、自粛しておきます。あらためて、コンサートの詳細情報は以下になります。
C×C -作曲家が作曲家を訪ねる旅- Vol.1 山本裕之×武満徹
2021/11/6(土)15:00
山本裕之:紐育舞曲 (2016)
武満徹:雨の呪文 (1982)
山本裕之:輪郭主義II (2010/18)
武満徹:スタンザII (1971)
武満徹:サクリファイス (1962)
山本裕之:輪郭主義IV (2013)
武満徹:カトレーンII (1977)
山本裕之:横浜舞曲(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)
【出演】石上真由子(ヴァイオリン)、山澤慧(チェロ)、丁仁愛(フルート)、岩瀬龍太(クラリネット)、佐藤秀徳(フリューゲルホルン)、高野麗音(ハープ)、大場章裕(打楽器)、土橋庸人(リュート&ギター)、中村和枝(ピアノ)、大瀧拓哉(ピアノ)、有馬純寿(エレクトロニクス)
予告動画
使われている音楽は《輪郭主義IV》です。
インタビュー(聞き手:小室敬幸さん)
https://www.kanagawa-kenminhall.com/news_detail?id=1822