《境界》の初演
On 15 December 2021, in Nagoya, my new piece Boundary for alto saxophone and bass clarinet will be premiered.
私が関わる名古屋のアンサンブル「音楽クラコ座」の約2年ぶりの定期公演が愛知県芸術劇場・小ホールであります。裏方をやっているためつい宣伝を忘れてしまっていたのですが、私の新作が演奏されます。
《境界》というタイトルの、アルトサクソフォンとバスクラリネットのデュオ曲で、音楽クラコ座の若手、磯貝充希さんと葛島涼子さんによって演奏されます。
企画者の小櫻秀樹氏が「山本さん、「呪術」がテーマなので、それに沿った曲を書いてください」と、普段私がそういう世界と真反対にいるのを承知で依頼してきたわけですが、困りながらも私が近年興味のある、中世日本に見られる「境界」という概念でなんとかしよう、と考えました。これは日本史家の網野善彦氏が提示したもので、聖界と俗界の間に横たわる場のことだそうです。僧侶、巫女など宗教に携わる人達、白拍子、乞食(こつじき)、遊女など当時の「神に近い存在」や、そういった人達が居た場所などがそれにあたるそうで、さらには、交易をする商人がいた市庭(市場)といったところまでも含むそうです。たとえば神社の境内で祭りのさいに人が集まるために出店が出るとかいうのは資本主義の原理的には当然の現象なのですが、網野氏は実際、中世日本史を資本主義の観点から論じており、そこに境界という概念が絡んでくるのは何とも面白い話です。他の研究者によるとその時代の僧侶は金融業も営んでいたそうなので、その意味でも資本主義とマジカルさというのは実は意外に近いところにあった、それが中世の日本の姿である、という事になりますね。
私の曲の話になりますが、二つの楽器はどちらが聖界でどちらが俗界、という設定をしているわけではありませんが、二つの楽器はユニゾンになりそうでいながら4分音でぶつかり、接近し反発する、という関係を始終続けます。それが境界という形で象徴的に音に表される、という設定です。私にしては珍しくテンポが遅い(とはいえ奏者にとっては気の抜けない)曲で、いつも推進力によって時間の流れを導き出そうとする普段の音楽の作り方から、少し脱却してみようという気持ちがありました。またペンタトニックの音列に沿って書かれているのもいつもの私らしからぬ(?)やり方です。
音楽クラコ座vol.10「呪術的思考〜マジカル・シンキング」
2021年12月15日(水)19:00開演(18:30開場)
愛知県芸術劇場・小ホール
【プログラム】
ティエリー・エスケシュ《暗闇の歌》(1992, s-sax, pno)
フレードリク・ヘーデリーン《Akt》 (2003, vln, vla, vc)
アンドレ・ジョリヴェ《リノスの歌》二重奏版 (1944, fl, pno)
クロード・ヴィヴィエ《パラミラボ》(1978, fl, vln, vc, pno)
山本裕之《境界》(2021, 世界初演, a-sax, b-cl)
アンドレ・ジョリヴェ《リノスの歌》室内楽版 (1944, fl, vln, vla, vc, hp, pno)
【出演】
丹下聡子(flute)
葛島涼子(clarinet)
磯貝充希(saxophone)
二川理嘉(violin)
西尾結花( viola/ゲスト)
野村友紀(cello)
内本久美(piano)
山地梨保(harp/ゲスト)