[境界概念]作品について⑤《水平線を拡大する》

「境界概念」では改訂初演を除いた純粋な新曲(って言い方も変ですが)が2曲あります。四分音を横の方向に流れる「線」にぶつけるか、縦である「和音」にぶつけるかの趣旨の違いを明確にしてあります。《水平線を拡大する》ではタイトルから想像できるように横の方向の四分音衝突です。

徹底的に線的な思考です。後半にアルペジオのような音型がたくさん出てきますが、線を広いの音域に拡散するとアルペジオに聞こえるだけで、素材は単なる「線」です。

スコア見ると断片の集まりのように見えますが、ほぼ一本の線を切り刻んで各楽器、各音域に配分しています。配分の仕方は極めて感覚的ですが、近年私が書いている多くの作品と作り方が共通しています。

実は編曲作品でさえこういうことをやっているので、奏者にとっては特にパート譜を見ても自分がその瞬間に何をやっているのかとてもわかりにくい景色になっていると思います。次の動画はJ.S.バッハの《チェロ組曲第1番》から〈ジーグ〉で、パート譜は1st euphoniumのものです。1

話がそれました。私は2004年頃から「モノディ」というコンセプトで曲を書いてました。音楽の要素を単純化するという目的で、あるピッチからなる「核(コア)」を設定する。核のピッチは変わっていくので線となり、またこの核を中心に音がぶれたりリズムがずれたりもするので、核の輪郭を越したまま聴こえかた自体は複雑になっていきます。実はこの「核」をぶれさせ曖昧にする手法がその後の四分音衝突につながり、『輪郭主義』という曲集に結実します。《水平線を拡大する》も考え方は同じで、近年ないくらいに線的な書法に特化したともいえるでしょう。

ところでフルート、ヴィオラ、ハープという編成は有名なドビュッシーのソナタと同じですが、特にドビュッシーへのオマージュというわけではありません。同じ編成であってもドビュッシーと私とでは時代も指向するところも全く異なるわけで、それがどれだけ違う音楽を導く結果に繋がるかという興味から、あえてこの編成を選んでみたものです。

  1. この編曲では和声付けもしてあるので、単純な線的な音楽ではありませんが。 ↩︎

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