《揺らめくサラバンド》CD収録のお知らせ

Guitarist Tsuchihashi Tsunehito’s solo album ‘Crypte’ has been released and includes Sarabanda Vacilante, which I wrote for this album.

土橋庸人さんの初ソロ・アルバムが4月7日にリリース、楽曲提供者の私には一足先に届きました。一年前の2月に、「アルバムのための新曲を書いてほしい」というメッセージを受け取りました。秋に個展があり、それに向けて2曲書かなければいけないというスケジュールの中でそんな大事な依頼を受けて良いのか? と悩みました。だいぶ悩んだつもりだったのですが、いま見返すと、メッセージを受け取ってから翌日の昼には引き受けてました。それだけ土橋さんの演奏が魅力的だったのですね。

それにしてもライブ初演をすっ飛ばしてCDに収録。これに戦慄しない作曲家はいません。土橋さんの勇気にも脱帽です。

CDに収録という目的から、マイクに拾われる音のイメージで書きました。ギターの繊細で多彩な音色を、最近私が使い始めた(今後続くかどうかは定かではない)「機能性を排除した調的な和音」に載せた5分ほどの曲で、最終的に《揺らめくサラバンド》と名付けました。サラバンドはスペインの遅い3拍子の舞曲で、この曲も確かに全曲を通して「3拍子」ですが、テンポや拍感が「ゆらめく」ために(ただし中間部は比較的わかりやすいですが)サラバンドに似て非なるものとなりました。これまでテンポも拍感もわりとはっきりとした曲ばかり書いてきたので、この曲は私の作品の中でも異色ではないか、と自分では思っています。

土橋庸人 Crypte
(ALM Records, ALM-143)

[1] 渡辺裕紀子(1983-): 《Quasi Senza Tempo #1-5》for solo guitar/guitars #1 *(2024)
[2] 渡辺俊哉(1974-): ギター・ソロのための《複数の声》(2021)
[3] 渡辺裕紀子: 《Quasi Senza Tempo #1-5》for solo guitar/guitars #2*(2024)
[4] 山本裕之(1967-): ギターのための《揺らめくサラバンド》(2024)
[5] 渡辺裕紀子: 《Quasi Senza Tempo #1-5》for solo guitar/guitars #3*(2024)
木下正道(1969-): ギター独奏のための《Crypte XV》(2015)
[6] I.
[7] II.
[8] III.
[9] IV.
[10] V. 
[11] 渡辺裕紀子: 《Quasi Senza Tempo #1-5》for solo guitar/guitars #4*(2024)
[12] 夏田昌和(1968-): ギター・ソロのための《木漏れ陽》(2022)
[13] 渡辺裕紀子: 《Quasi Senza Tempo #1-5》for solo guitar/guitars #5*(2024)

このアルバムを聴いていると、音楽が音の連なりや重なりからできていることが、常識でありながらも非常識のような気がしてきます。私の曲に限らずこのアルバムにあるすべての音楽は、土橋さんの手から慎重に紡ぎ出された音がいったん浮揚し、着地した痕跡です。妙な表現ですが、作曲家の書いた音が一旦は土橋さんの手に入るのですが、それをダイレクトに音楽化するのではなく、ギターにとってナチュラルでニュートラルな状態にし、そして聴き手に届く。そんな風に私には感じられます。まったく不思議な感覚に浸れるCDです。

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