Phidias Trioによる“Re-invent”。《農民カンタータ》を下敷きに、など(その2)

Phidias Trioによる“Re-invent”、前回のエントリーの続きです。

チラシのプログラムには旧作2曲、新作2曲が載っています。

《わしらの新しいご領主に〜》以外のもう一つの新曲には、《三つのインヴェンション》という何ともクラシカルなタイトルがついていますが、そこから絶対音楽的な雰囲気が感じられると思います。この曲は《わしらの新しいご領主に〜》に挟んで演奏される「間奏曲」として依頼されました。

《わしらの新しいご領主に〜》はこの時代のオペラやカンタータの一般的な構成と同じく、アリアやレチタティーヴォなど24もの小曲がストーリーの流れに即して並んでいて、通して演奏すればそれなりの長さにはなります。間奏曲的なものを挟むことは、聞き手がこのストーリーから一旦距離を取って客観的に咀嚼する時間として機能するでしょうし、プラクティカルには歌手にとって声を休める時間にもなります。

ではこの《三つのインヴェンション》はどのような曲なのか? ですが、これ自体が独立した楽曲として演奏できるようにする一方で、少なくともやはり本編の《わしらの新しいご領主に〜》との関連を作りたいわけです。それを説明するには、《わしらの新しいご領主に〜》の構成について少し触れる必要があります。

先ほども書いたように、《わしらの新しいご領主に〜》はアリアやレチタティーヴォなど、24の曲から成り立っており、その内容は以下の通りです。

(Aria)や(Recitativo)などカッコに入っているタイトルは原譜にそう書かれていないだけで、様式的にそれぞれアリアやレチタティーヴォ等なのは明らかです。これを6曲ずつのグループに分けると「中断」が3箇所作れるので、ここに「インヴェンション」を挿入すれば、適度な休息と距離感、そしてバッハが好きなシンメトリックなプロポーションも実現できます。そして、私は《インヴェンション》の3曲をそれぞれのブロックで演奏される「レチタティーヴォ」に紐付けることにしました。

一般的にレチタティーヴォは、登場人物のリアルな「セリフ」だったり、ストーリーの「解説」だったりします。対して「アリア」は叙情的な感情表現が目的です。そのため「アリア」が主であるのに対して「レチタティーヴォ」がそれを繋ぐものとして機能しているともいえます。実際、アリアの方がレチタティーヴォより演奏時間が長いのが普通で、レチタティーヴォはアリアの合間にストーリーを敷衍し、場面を次に送る役割を持ちます。またアリアにはそれぞれ象徴的な旋律があてがわれるのに対して、レチタティーヴォは「語り」の目的があるため、あえて憶えやすい旋律は出てきません。そして明確な主調を持つアリアどうしを繋げるために、レチタティーヴォは不安定かつ流動的に転調します。

後代のオペラもだいたいそのような役割分担になっていて、やはりアリアの人気が高い。だから「アリア集」やアリアを抜粋したガラ・コンサートなどが盛んです。いや逆にレチタティーヴォを主役にしたらどうなるのか。ストーリーかどんどん進んで話がむしろわかりやすくなるのではないか。

という妄想話は脇に置いといて、私はアリアではなくレチタティーヴォを《三つのインヴェンション》に援用できないかと考えました。実は《わしら》のレチタティーヴォでは、私が最近用い始めている「機能を排除した調的和音」をところどころ使っています。簡単にいうと古典の和声と同じような和音(長三和音、等)を使いながら、不自然な和声連結になるようなルールを設定した和音列を用いています。レチタティーヴォで使ったその和音列をそのまま《三つのインヴェンション》にも使う、ということで、「なんか似たような響きの流れがさっきあったなあ……」という親密な関係をこの両者に作ろうという趣旨です。

ここは分析講座ではないので詳しくは書きませんが、参考までにサンプルを上げます。同じ和音を色分けしてみました。

《わしらの新しいご領主に…》から第15曲目レチタティーヴォ
《三つのインヴェンション》から第2曲目

編成はクラリネット、ヴィオラ、ピアノ。ヴィオラは《わしらの新しいご領主に〜》でもそうなのですが、4本すべての弦を4分音低く調弦してあります。《わしらの新しいご領主に〜》でもヴァイオリンとヴィオラが半々ぐらいで持ち替えがあります(松岡さんが数えたたところ30箇所以上もあったとか……!)。

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