Phidias Trioによる“Re-invent”。《農民カンタータ》を下敷きに、など(その3)

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旧作について。
この日は《輪郭主義・ミニ》(2012)と《楔を打てど、霧は晴れず》(2006/11)が再演されます。どちらも4分音をぶつける系の曲ですが、《楔を打てど》はそのきっかけとなった曲、これを発展させた『輪郭主義』シリーズの中の番外編のようなプチ曲が《輪郭主義・ミニ》です。後半に演奏される新曲の、テクニカル的な原型を前半でご紹介するみたいな感じのプログラムになっています。

《楔を打てど、霧は晴れず》はマイケル・E・リチャーズ(cl)と田野崎和子(pf)デュオの委嘱により2012年に作曲し、デュオが活動拠点としていたボルティモアにて初演、その後日本でも二度、それぞれ異なる演奏家によって演奏されています。

マイケル・E・リチャーズ氏にはクラリネットの拡張奏法についての著作があるのですが、その本に書かれている奏法を用いて作曲してくれ、という依頼でした。ところが若い頃と違って、当時の私はどちらかというと拡張奏法を減らし、単旋律的な「線」をこねくり回すことによって音楽の発展可能性を考えていた時期でした。むやみに拡張奏法を用いると「線」的に考えることが難しくになるため、拡張奏法としてはオーソドックスな4分音を積極的に使うことにしました。単旋律的な「線」+4分音、となると、当然「ぶつける」という発想になります。

クラリネットで4分音を作り、ピアノの12平均律にぶつけると、なぜかピアノの音が歪んで聞こえる、という謎現象を発見し、この曲がその後の私の『輪郭主義』シリーズ、そして現在も続く4分音衝突の作品群に繋がることになりました。

なお《楔を打てど、霧は晴れず》では、重音などいくらかの拡張奏法も使ってないわけではなく、今回岩瀬さんより奏法について質問があったときに、久しぶりにマイケル・E・リチャーズさんの資料を探そうとネットを徘徊したところ、彼が勤めていたメリーランド州立大学ボルティモア校の追悼記事によって、数年前に亡くなられていたことを知りました。

《輪郭主義・ミニ》は、東日本大震災のチャリティーのために、国内外の100人の作曲家が小品を提供したプロジェクト「HIBARI」のために作曲されました。三瀬俊吾(ヴァイオリン)、大須賀かおり(ピアノ)の両氏によって録音され、ウェブ上でダウンロード販売されましたが、それに先立ち、リンネア・フルッティアLinnea Hurttia(ヴァイオリン)、横山暁子(ピアノ)の両氏によってヘルシンキで初演されています。

わずか2分ほどの曲で、ヴァイオリンの2本の弦を4分音にチューニングすることによって4分音を作り出しやすくなっています。この曲も幸運なことにこれまで何度も演奏されてきていますが、私自身、ライブで聞くのは久しぶりかもしれません。

(Phidias Trioの公演情報はこちら。)

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