ユーフォニアム協奏曲《ディクトゥム・ファクトゥム》初演告知(三度目の正直)

初演|Premier

After two postponements, the euphonium concerto Dictum Factum will finally be premiered in Hamamatsu on 11 August 2021.

去年初演予定だったユーフォニアム協奏曲《ディクトゥム・ファクトゥム》が2度も延期になった理由は、委嘱者であるセントラル愛知交響楽団が定期演奏会の会場としている名古屋のしらかわホールのステージが一般的な大ホールに比較して小さめであり、そこを目一杯使うことになっていたこの曲が昨今のディスタンス的要件に合わなくなってしまったためでした。ということはコロナがおさまるまでこの曲はいつ初演されるかわからない運命だったのですが、定期演奏会ではなく『オーケストラ・キャラバン47』という文化庁関連の公演で急遽取り上げていただくことになりました(初演実現のために、楽団や指揮者の方々がいろいろと考えてくださったようです。本当にありがたいこと⋯⋯)。

オーケストラ・キャラバン~オーケストラと心に響くひとときを~ セントラル愛知交響楽団 浜松公演
日時 2021年8月11日(水)18:00開場
会場 アクトシティ浜松 大ホール
出演 指揮/角田鋼亮(常任指揮者) ユーフォニアム/小寺香奈 管弦楽/セントラル愛知交響楽団

プログラム
ディーリアス(編曲:フェンビー):二つの水彩画
山本裕之:ディクトゥム・ファクトゥム〜ユーフォニアムとオーケストラのための~(委嘱作品・世界初演)
ムソルグスキー(編曲:ラヴェル):組曲「展覧会の絵」

「ユーフォニアム協奏曲」というと、多くはウインド・オーケストラ編成だったり、管弦楽でも古典的な様式だったりすることが多く、コンテンポラリーの文脈で書かれることは私の知る限りほぼなかったと思います。せっかく機会をいただいたので、いわゆる「まろやかで朗々と歌うようなユーフォニアムの響き」は一旦脇に置き、長年小寺さんと研究を積み重ねてきた拡張奏法も含めた新しいユーフォニアム協奏曲を書こうと考えました。そもそも管弦楽による協奏曲自体、自分にとって書くのは初めてだったりする。

拡張奏法とはいっても現代音楽で常用されているような奏法からは抜け出していないので、テクニックとしての目新しさはそれほどありません。しかしユーフォニアムの音色が丸いので、4分音は響きにうまく歪みを与えますし、(声を使った)重音は逆にソリストを浮かび上がらせるのに効果的です。土壌を共通化するためにオーケストラにも拡張奏法を書き込んでいるので、演奏難易度は決して低くないと思います。拡張奏法を使わなければ次の時代にいけないのか、という考え方自体に次世代感は既に失われていますが(ラッヘンマンはいま何歳だ)、しかしここで使われているそのような奏法群は、新しい音響を作るという目的ではなく、いつも私が自作において用いる概念「音楽の曖昧性」とその発現の一つである「歪み」を実現するための手法に過ぎません。ただそれらが「ユーフォニアム協奏曲」の中で使われることは珍しいとは思います。

実はもう一つ、自分なりに新しい試みがあります。

曲の後半で「純粋ではない」打楽器群が出てくるのですが、それは「プリペアド・パーカッション」です。写真ではスイスカウベルにバネを仕込んでおり、その他にアゴゴに鎖を入れたりなど音色を濁らせる施しをしています。打楽器のプリパレーションはいわゆる「プリペアド・ピアノ」のような「まったく別の楽器に変身させた」ような衝撃はありませんが、異質感を作り出すことはできます。倍音成分の少ないユーフォニアムに対してノイジーな打楽器というのは違和感があるかもしれませんが、この打楽器群は曲の中の構造的に「特別な部分」を演出します。それはつまり従来のコンチェルトにおける「カデンツァ」のようなものです。

最後にタイトルの由来を。「dictum factum」はギリシャの喜劇作家テレンティウス(紀元前2世紀)の作品に出てくる「言ったことをすぐやる」という意味で、ソリストとオーケストラの関係になぞらえています。