《Eve IV》が初演されます
Eve IV for string trio will be premiered in Nagoya on 3 March 2023.
《Eve》という室内楽曲のシリーズがあり、これまで
・《Eve I》for string trio (1997)
・《Eve II》for violin and cello (2001)
・《Eve III》for 4 violas (2013)
というラインナップになっています。どれも弦楽器による小編成室内楽曲です。
(ちなみに《Eve I》は 「カンティクム・トレムルム」という私の初期作品集CDに収録されています)
これらは作曲年代に隔たりがあり、最初の2曲とその後では音楽的関心や作曲手法も異なるため、同じタイトルでありながらまるでリゲティの二つの弦楽四重奏曲のようにスタイルが異なって聞こえると思います。
では当初どのような観点で《Eve》を書いていたのかというと、そもそもラテン語を祖とする「Eve」には「前」という意味があり、「あるパッセージを弾く楽器に対して違う楽器がその「直前」にイベント(event)を起こす(弾く)」ことによって拍感の撹乱を起こす、などといったことを考えていました。それはもちろん私の作曲上の関心である「曖昧性」と関連があります。
ところがその後、曖昧性の主役が微分音に移るなど、手法や方法論が変化するのにともなって、スタイルも幾らか変わってしまったがために、3曲目では元の「Eve」(つまり「直前」)という趣旨が薄くなり、タイトルのみが残存してしまいました。そしてこのたび《Eve IV》for string trioを書く機会を頂いたのですが、もはや1曲目とは似ても似つかないものとなっています。
似ていない大きな理由はもう一つあります。実は今回の新作は、私が近年ときどき書く「メタ・ヴァリエーション」とでもいうような種類の曲になっています。これは《異教的な夜》も該当するのですが、いわゆる変奏曲をさらに変奏させるという手法による作曲です。たとえば《異教的な夜》ではパガニーニの有名なカプリスの変奏曲をもとに、新たな変奏曲を編み直しているわけですが、当然原曲の作曲者と私とでは変奏に対する考え方が異なる、つまり二人の作曲家による変奏が地層のように重なっているような曲が出来上がるわけです。
《Eve IV》では、ベートーヴェンの《セプテット》op.20の変奏曲楽章を下敷きにして変奏を行っています。これは2023年3月3日に愛知県立芸術大学の花崎薫先生がプロデュースされている「室内楽の饗演」で演奏される予定です。
なぜベートーヴェンの《セプテット》を下敷きにしているのかというと、つまりこの日のプログラムにその曲があるから、というちょっと安直な理由なのですが、始めに私の曲を聴いていただいて、後に本家本元の「解答」が得られる、という楽しみ方もあるかな、と勝手に考えてみた次第です。
室内楽の響 演vol.2~愛知県立芸術大学弦楽器コース教員を中心として~
2023年3月3日(金)18:45
電気文化会館 ザ・コンサートホール(名古屋市中区栄2-2-5)
出演
ヴァイオリン:フェデリコ・アゴスティーニ、白石禮子
ヴァイオリン・ヴィオラ:福本泰之、桐山建志
チェロ:花崎薫
コントラバス:渡邉玲雄
クラリネット:ブルックス 信雄 トーン
ファゴット:宇賀神 広宣
ホルン:安土 真弓
プログラム
山本裕之:弦楽トリオのための《Eve IV》(初演)
W. A. モーツァルト:弦楽五重奏曲 第5番 ニ長調 K. 593
L. v. ベートーヴェン:七重奏曲 変ホ長調 作品20
主催:愛知県公立大学法人 愛知県立芸術大学
企画:愛知県立芸術大学 音楽学部器楽専攻 弦楽器コース
最後に、「Eve」というタイトルは普通に読むと「イヴ」になるわけですが、私としてはラテン語読みのつもりなので「エーウェ」になると思います。でも「Eve」を見て「エーウェ」と読む人なんて普通日本にはいないと思うので、あまり説明しないことにしていますが、せっかくの機会なのでここには書いてしまいました。