《イポメア・アルバ》再演、小寺香奈リサイタル(日本現代音楽協会ペガサス・コンサート)
長年ともにユーフォニアム奏法研究をしてきた小寺香奈さんが、日本現代音楽協会(以下JSCM)主催「ペガサス・コンサート」にてリサイタルを行います。
この企画は、JSCMが作曲家ではなく現代音楽を積極的に扱う演奏家に向けて公募し、毎年2名ほどの演奏家が選ばれリサイタルを行う、というものです。ただ現代音楽を演奏すれば良いというものではなく、日本人作曲家を含み、新作もあることが条件ですが、その上で企画性に富んでいることが重要だそうです。小寺さんは「ユーフォニアム微分音カタログ」というタイトルで、微分音を積極的に用いた作品のみでプログラムを組んでいます。
そもそも「ユーフォニアムで微分音?」といぶかしげに思うのが普通でしょう。ただでさえレパートリーの少ない楽器で、現代もの、しかも微分音。確かにこの楽器に現代作品は多くありませんが、その中では微分音を使っている率も低くはありません。私が小寺さんと共著で2009年に発表した論文では、ユーフォニアムでどのように微分音を作り出すのかを説明していますが、十数年前のものであるにもかかわらずけっこう日常的に閲覧とダウンロードがされているようで、もしかしたらこれによって(少なくとも日本では)ユーフォニアムに微分音を導入した作品が多少とも書かれやすくなっているのではないか? と手前味噌ながら思っています。
プログラムの6曲のなかで、ヴィシネグラツキー作品はチェロ作品ですが、それ以外の5曲は純粋なユーフォニアムのための微分音作品で、また微分音を使う方法や視点も一人一人違うのが面白い。それを小寺さんは「歪み、ぶつかり、システム、模倣、響き、そして…」と書いています(「そして…」は今回の委嘱作である鈴木治行作品ですね)。微分音を24平均律、つまり12平均律を単純に割ったもの、という考え方はシンプルすぎで、そこから生じる縦と横の歪みによる効果などを知れば、表現と書法の可能性が従来より大幅に増えるわけです。もちろんそのこと自体は特段ユーフォニアムに限らない話であることを考えると、この企画は他の楽器でも可能、ということになりましょう。しかし、そこをユーフォニアム、つまり「ユーフォニアムで微分音?」と思わせるほどに微分音と結びつきにくい楽器でやることの意味は大きいと私は思います。
さて私の作品は2009年(上記論文が書かれた直後)の《イポメア・アルバ》で、ピアノとのデュオ作品です。この曲は小寺さんのCD「ディスカヴァリー・ユーフォニアム」にも収録されており、最近は配信もされているようなので、事前にお聴きいただくことも容易だと思います。微分音のユーフォニアムとピアノがちぐはぐに補完し合ったりぶつかったりするもので、私が翌年から書き始める「輪郭主義」シリーズに通じる部分があると思います。
ペガサス・コンサート Series Vol.IV
(1)小寺香奈「ユーフォニアム微分音カタログ」
2022年12月8日(木)18:30開場 19:00開演
会場:東京オペラシティリサイタルホール
1.イワン・ヴィシュネグラツキー/存在の日の2つの主題による瞑想曲 作品7(作曲1918-19年/改訂1976年)Euph, Pf
2.山本裕之/イポメア・アルバ(作曲2009年)Euph, Pf
3.松平頼曉/コンタクト(作曲2021年)Euph, Pf
4.田中吉史/告知、会見、ユーフォニアム(作曲2011年)Euph
5.ミカエル・レヴィナス/旋回する鳥II(作曲2005年日本初演)3Euph
6.鈴木治行/委嘱新作(作曲2022年初演)Euph, Pf
【共演】安田結衣子(ピアノ)円能寺博行・川原三樹夫(ユーフォニアム)
座席券:3,000円 ⇒ ネットで購入
インターネット視聴券:1,500円 ⇒ ネットで購入
インターネット視聴もありますが、微分音はやはり会場の響きの中で聞くのが一番効果を味わえます。ぜひ会場へ!
(なお念のために書き添えておきますが、小寺さんのこの企画への応募やプログラム内容について、私はまったく関与していません。いや無理だって。それから翌日の近藤さんのプログラムも面白そうです。)