《彼方と此方》の再演(東京と大阪by葵トリオ)

東京オペラシティが創立した1996年から続いている「B→C」シリーズは、若手演奏家を登用しプログラムにバッハと現代音楽を必ず入れるという条件をつけるユニークな企画なのですが、既に260回を越えている長寿番組で、その間それだけの優れた演奏家を世に送り出してきたことになります。言い替えれば、日本で名だたるこの若手登竜門をくぐりたければ、現代音楽を避けては通れない、という仕組みになっています。これまでのアーカイヴを見ると、「ガチのプログラム」を組む人もいれば「いちおうの現代もの」を入れてる人も多くいます。プログラムを見れば、同時代音楽に対する本気度とリサーチ力、さらにいえば知性と教養まで透けて見えてしまうという、息を飲むシリーズです。

で、人しぶりに私の旧作を取り上げてくださるグループです。

宗次ホールで彼らの演奏を聴いたときは、音と表現の完成度に飲み込まれました。

非常に迂闊だったのですが、これを書いている今日がこのB→Cの本番。いまさら宣伝になっていませんが、けっこう前から完売していたそうです。つまりそれだけ注目度の高いピアノトリオです。

「B→C」は大阪のザ・フェニックスホールとも共催して同じプログラムを組むことをたまにやるようで、この公演は今週土曜日の12月21日に開催されます。私はこちらを聴きに行くつもりです(実は住んでいる名古屋からはこちらの方が近いのです)。

《彼方と此方》について簡単に紹介。2001年の作品で、3度音程のアルペジオと「ぶら下がる和音」を多用していた時期の作品です。「ぶら下がる和音」というのは、低音の上に響きが積み上げられる古典的な和音とは反対に、高音を固定し音の組織を変化させていくものです。この手法については私はこれまでほぼ語ったことがないと思うのですが、このころ既に追求しはじめていた「音の曖昧性」をリアライズする方法のひとつで、「ぶら下がり」のイメージはエリック・サティの和音の作り方から学んだものでした。

どのみちエライ古い作品なのですが、北京で初演されて以来、これまで複数のトリオによってカナダ、日本、ニュージーランドで演奏されてきたと思います。CDにも収録され、ナクソスでも聴ける幸運な曲です。

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