《相対性カノン》の初演(未来に受け継ぐピアノ音楽の実験コンサート)
Canon of Relativity for prepared piano will be performed (WP) by Shizuka Kuretani at the concert of Ryogoku Monten Hall (Tokyo), on 23th January, 2021.
東京には緊急事態宣言も出ているさなかなので「是非いらしてください!」と言えないのが辛いところです。
久しぶりの新作初演です。
両国門天ホールで2018年から続けられている「未来に受け継ぐピアノ音楽の実験」、その一環のコンサートが今月3回に分かれて行われ、計21人の作曲家の作品が演奏されます。この公演の委嘱には、「ピアノの特殊奏法を使う」という条件がついていました。普通は「使うな」ですよね、少なくとも日本では。この「未来に受け継ぐ〜」は、ピアノの特殊奏法がさまざまに制約されている日本において、使用者と管理者が相互理解を深め、どのように問題を打開していくかというプロジェクトです。両国門天ホールとピアニストの井上郷子さん、作曲家の伊藤祐二さんが中心となって、若いピアニストのワークショップ、レクチャー、シンポジウム、全国の会館へのリサーチ等を積み重ねてきました。今月の3度のコンサートがその集大成の一つであると私は理解しています。
プロジェクトの詳細は両国門天ホールのサイトを参照していただきたいのですが、ともかくそのような企画の中で今回書いたのは、《相対性カノン》という不覚にも私の嫌いなダジャレのようなタイトルの曲です。しかし曲自体はふざけた内容ではなく、厳格なカノンで書かれた至って真面目なものです。
ある旋律が奏されると、次の声部がそれを後追いする、それが一般的なカノンです。そこには先の声部が後の声部の内容を規定するという、主従の関係があります。しかし今回の私の曲では、先のカノンがプリパレイションによって不明瞭化され、後追いの声部がそれを明確化するという仕組みになっています。そうするともはや主従のようには聞こえず、互いの声部は相対的な関係になり、これがタイトルの由来です。ただ実際は鏡像カノン(音型が厳密に反転している)なので〈静かな湖畔〉のような単純な追っかけカノンとは似て非なるもので、そこは耳にとって複雑な音楽にある程度はなっていると思います。
プリパレイションは先行パートが使う音だけに施されており、ケージ的なノイズや音色の多様化を狙った打楽器的なものではなく、できるだけ第3倍音を抽出するようにインストラクションには書いてあります。自分で実験したところ、中低音音域には皮膜付きの電線、高音域にはシリコン素材が最適でした。シリコン素材は(自分的には大発見と思っているのですが)非常に柔らかくて、指の腹で弦に触れるようなデリケートなプリパレイションが可能です。私が使ったのは「maki maki」という、コードを束ねる結束バンドで、ヒダヒダがついているためピアノの弦にうまく引っかけることができ、しかも適当な長さに切って経済的に使えるという優れものです(もちろん商品開発目的から完全に外れています)。少しネタバレになりますが、ピアニスト向けのデモとして作った動画がありますので貼り付けておきます。
話を公演に戻しますが、《相対性カノン》の初演は1月23日の16時から、この3回シリーズの二日目【Bプログラム】に当たります。私の曲は榑谷静香さんが演奏されます。榑谷さんには拙作をはじめて演奏して戴くのでとても楽しみにしています。
2021年1月23日(土)開演16時(開場15分前)@両国門天ホール
演奏:榑谷静香、篠田昌伸、井上郷子(ピアノ)
プログラム:
山本裕之:相対性カノン
川島素晴:Vibra-pfone
飛田泰三:of rain
鶴見幸代:すもうハノン第二集
篠田昌伸:ATONALUMORI for Piano and 3 players
山本哲也:宙吊りの色彩
金ヨハン:a embodied “piano” for 1 piano and 3 voices
また上掲チラシ見ると、1月17日と24日のプログラムも飛んで聴きに行きたいようなラインナップなのですが、このコロナの状況ではなんとも歯がゆいものがあります。